エリート専務の献身愛
 案ずるより産むが易しとか言うけれど、考えすぎて身動きすらできないのが私だ。

「今日も、昨日も……春からずっと、ダメなままで。最近はもう、行動するのも怖くなる時があるっていうか」

 私は、できないことや不確かなことに対し、『できる』とは言ってはいけないと思っている。

 確実に約束できることだけを、慎重に言葉にして伝えるように気をつけている。
 だから、浅見さんのように、考えるよりも行動する、なんてことは私には考えられないことだ。

 徐々にまた頭が下がっていく。
 視界はあっという間に、テーブル上の自分の手。

 この手で、私はいったいなにができるんだろうか。なにもできていないとしか思えない。

 せっかく浅見さんと会って、落ち込む気持ちを一時的にでも忘れ掛けていたのに、一瞬で再び暗闇の中。

 自分の弱さに負けて項垂れていると、浅見さんの凛とした声が届く。

「アメリカではYes I canの精神が普通だよ。なにに対しても、まずは『できる』って言うくらいね。瑠依は自分でチャンスを逃していない? 可能性を狭めているんじゃない?」

 彼の言葉に自然と顔が上がった。
 でも、簡単に頷ける話じゃなくて、咄嗟に反論してしまう。

「私にはとてもそんなこと言えません。自分だけならまだしも、誰かに迷惑が掛かってしまうから」

 私の言い分は、彼にとっては〝逃げ〟に聞こえるのかもしれない。
 だけど、それが私にとっての現実で、変えられない事実。

 目を揺るがせながら言い返した私に、浅見さんは怒るでも困るでも呆れるでもなく、やっぱりおおらかな雰囲気で言った。

「まだ少ししか一緒にいたことはないけれど、キミはとても心が繊細で、我慢強い。相手に対して異常に気を遣いすぎに思える」

 ふんわりとした優しい目をするかと思えば、こんなふうに力強い目を見せる。
 彼の真剣な眼差しと、落ち着いた声は人を惹き込む力を持っている。

「人に迷惑を掛けるのも当たり前だ。お互い様だし、気にしなくてもいいんだよ。それと、もっと自分を信じて」
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