エリート専務の献身愛
 言われていることは至極単純なこと。

 それが、なぜ今まで自分で自分にそう言ってあげられなかったのか。
 そして、どうして彼の言葉だと、こんなに素直に受け止められるのか。

「大丈夫。瑠依は頑張ってる」

 浅見さんは、ニッと口角を上げると、合わせていた私の両手に手を重ねた。
 『頑張ってる』という言葉が上辺だけだったとしても、今の私には最高の慰めだった。

「……ありがとうございます。私、本当になにも持っていないから……。頑張っていることすら伝わらなくて。でもそれは、私がまだ頑張り足りないからかなって悩んだりして」

 ああ、ダメだ。こんなところで泣いてしまったら。
 私の声と手、お願いだから震えないで。

「だから、浅見さんに『頑張ってる』って認めてもらえただけで、もう」
「瑠依はなにも持っていないなんて、思い込みだよ。日本人は謙遜する人が多いみたいだけれど、瑠依はそうじゃないね。本心だ」

 浅見さんは片時も目を逸らさず、私の手をぎゅっと握る。

「瑠依は自立しようと努力しているし、仕事にも真摯に向き合っている。なにより、心が綺麗で、優しい」
「そんなこと……」
「じゃなきゃ、オレに二回も付き合って食事なんかしないよ」

 短く「ふっ」と笑って、さらに続ける。

「そういうところが好きだけど、約束してくれる? これからプライベートでは、ほかの男とふたりきりで食事に行ったりしないって。なにかあったらと思うと心配だ」
「あ、はは。そんな心配不要ですよ。そういう機会なんてないですから」

 浅見さんは、きっと女性にこういう言葉を掛けることに慣れているだけ。
 生まれ育った生活環境が違うから、ちょっと驚いて、ドキドキしてしまっているだけ。

 自分の心拍数の速さに、『落ち着け』というように言い聞かせる。

 でも、浅見さんはこの温かい手を離そうとしない。
 そうして、さらに心を掻き乱す。

「心配……っていうのと、オレの嫉妬と独占欲」

 彼の濃い色をした双眸が私を捕えて離さない。
 自分の気持ちが大きく揺らいでいるのを感じる。

 唇を動かすことも忘れた私を見て、浅見さんはニコッと微笑を浮かべた。

「つい話し込んじゃったね。お腹も空いてるし、早く注文しようか」

 真に受けるな。だって、こんなに素敵な人だもん。本気にしちゃ痛い目を見る。

 それに、彼はリミットがある人なんだから――。
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