エリート専務の献身愛
 報告書や資料など、通常の業務が思うように進まず、私は大量の仕事を持って会社を出た。

 今は十時過ぎ。家に着くのはきっと十一時頃だろう。疲れているけれど、それから仕事を片付けなければ。

 とぼとぼと駅へ向かっている途中、一本の電話が入る。
 見ると、【浅見総】と表示されていて、私は電話に出るのを躊躇った。

 別に浅見さんのせいにするわけじゃない。ただ、彼のアドバイスを生かしきれない自分が情けなくて、どう言葉を交わしていいのかわからない。
 けれど、急かすようになり続けるコール音に、道行く人の視線にも負けて電話を取った。

「も、もしもし……」
『瑠依』

 耳もとで聞こえる声は、すごく優しく響く。
 それは、つい気持ちが緩んで、泣きそうになってしまうほど。

「はい。どうかしましたか?」
『いや、今朝いつもの場所で瑠依を見かけなかったから』
「ああ、今朝は社に行かず、直行したので」

 だけど、気丈に振る舞って返答する。

 ちょっと声が震えてしまった。これで、泣き出しそうな顔を見られたなら話は別だけれど、電話だしきっと気づかれない。

『そっか。瑠依が心配で出待ちでもしようとしていたんだけど、仕事が今まで掛かってしまって』

 浅見さんは、冗談交じりにそう言って笑う。そして、少しの間を置いて、今度は真剣な声が耳に届く。

『だからせめて、声が聞きたくて』

 彼の発した音は、スルッと耳を通り、胸の奥に落ちてきて身体全体に広がっていく。

 どうして、そんなに必要としてくれるの?
 こんな出来損ないの私なんかを、ちっぽけな存在の私を……。

 つい嗚咽し、言葉を詰まらせる。
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