エリート専務の献身愛
『……瑠依?』

 不審に思ったんだろう。浅見さんは、少し戸惑った雰囲気で私の名を呼んだ。
 しかし、私は一向に声がでなく、見えるわけもないのに、ただ無言で首を横に振るだけ。

『瑠依。なにがあった?』

 すると、今度は少し強めに問い質される。

 ダメだ。この人には、なぜかみっともないところばかり見せてしまう。
 もっと、しっかりしなきゃ。自分の仕事観をしっかりと持っているような浅見さんだ。こんなに何度も弱音を吐いていたら呆れられる。

 瞼を閉じ、すうっと息を吸い込んだ。

「いいえ。なにも」
『嘘だ。今どこ?』

 うまく平気な自分を演じられたと思ったのに、即座に切り返され、たじろいでしまう。眉を寄せ、返答に困っていると懇願される。

『お願い、瑠依』

 どこか甘やかで、情に訴えるような声に負けた。

「会……社出たとこ…」
『じゃあすぐだ。待ってて』

 ……浅見さんの押しに負けたなんて嘘。
 私は彼に会いたいんだ。

 通話が切れてもなお、携帯を耳に当てたまま、その場に立ち呆ける。
 数分後。後方から駆け寄ってくる足音に、手を下ろしておもむろに振り返った。

「瑠依!」

 スーツ姿の浅見さんは、顔を合わすなり、両手を私の顔に添えてまじまじと見てくる。

「どうしてそんなに泣きそうな目をしているの」

 形の整った眉を寄せ、心配そうな顔をする。
 その様子に私は、本当に気に掛けてくれていると感じて嘘やごまかすことをやめた。

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