エリート専務の献身愛
「頑張って、今までとは違う自分を見つけてみようとしたんですけれど……結果、やっぱりそううまくはいかなくて。大成功はできなくても、無難に進めた方がよかったのかもしれないって……」

 今までの私なら、なにも考えずとも手堅い道を通っていた。
 だけど、なにを勘違いしたんだか、別の道でも簡単に進んでいけると思ってしまっていた。

「石橋をたたいて渡るような私が簡単に挑戦なんて、無理な話だったみたいで……どうしよう」

 まだ解決していない問題を思い出し、浅見さんの手から逃れた私は両手で顔を覆った。

 もう時間を撒き戻せるなら、今朝からやり直したい。

 現実から逃げたい一心で、目をギュッと瞑った。すると、現実から逃げるなと言わんばかりに、顔を覆っていた両手を外される。

「保守的になっていたら、その気持ちが足枷になる。いっそ、ぜんぶ捨ててしまえばいい。新しい方法が必ずある」

 薄ら瞳を開け、見えた浅見さんが私を覗き込みながら言った。
 私は言われた言葉をゆっくり頭の中で噛み砕いて口を開く。

「ぜんぶ……? それが、今までの浅見さんのやり方ですか?」
「もちろん、過去を生かすのも大事だ。だけど、一発逆転を狙うならそのくらいの発想の転換が必要だと思ってやってきたよ。古い考えを持つ人間の顔色ばかり窺っていても、会社のためにはならないからね」

 ただの直感だけれど、浅見さんは親の七光りだけでそこにいるわけじゃないと思う。

 こんなことを言えるくらい、きっとこの人も苦労してきたんだ。


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