エリート専務の献身愛
「……非情だと思う? 今まで積み上げてきたものを否定するようなことを言ってるもんな」

 それに、似たようなことを言われたことがあったのを思い出した。

 学生時代、クラスでも高得点には違わなかったテストを見せたとき、父に言われた。『百点が取れなかったら零点と同じ。全部忘れて、一からやり直せ』と。

 いくら積み上げてきたといっても、結果が期待に添えない場合はまたゼロから始めるしかないんだと。

 ……でも結局、父の〝百点〟には応えられなくて、私は今ここにいるんだけれど。

「いえ。きっと、そういう選択をしなければならない立場の人もいるのだと、私なりに理解しているつもりですから」

 父を含め、たぶんそういう人たちはたくさんいる。
 私はそうなれないから、こうして今でも小さなことで躓いては悩んでいるんだ。

 ――だけど。

 私の両手首を優しく掴む浅見さんを見つめる。

 父は悩んでいる私に合わせることはしなかったけれど、この人は違う。

「それ以前に、浅見さんが非情な人だなんて思えるわけがありません」
「……どうして?」
「だって、いつも親切だし、気遣ってくれていると思うから。仕事については、直接聞いたわけでも見たわけでもないですが、たぶん浅見さんはフォローを忘れない人だと思います」

 傲慢な人には思えない。差別する人だとも感じられない。
 だから絶対、非情なんかじゃない。


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