エリート専務の献身愛
「ところで皆さん、お手元のお弁当に入っている煮物は召し上がられましたか? 筑前煮のように見えますが、これは九州は福岡の郷土料理、がめ煮です。懐かしいと思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか」

 お弁当のメインは国産和牛。だけど、スポットライトはそこじゃない。
 私が何度かお世話になっているお弁当屋さんに掛け合って作ってもらったのは、がめ煮をはじめ、肥後田楽、分葱を使った一文字のぐるぐると言った九州の料理。

 うなぎはやっぱり無理だったから、発想の転換をしてみた。
 笹川先生にリクエストされたものではなくなったけれど、きっと外さないであろう内容で準備をした。

「そっくりですが、筑前煮と行程が違い、油で炒めないそうです。そのため、じっくり丁寧にアクを取る必要があるとか。これは、今ご紹介した医薬品Bの特徴に似ています」

 心臓がバクバク騒いでいる。
 このままこの病院にお世話になってしまうんじゃないかってくらいだ。

 パワーポイントを操作する手が僅かに震える。

「Aと比べ効果はじっくりとですが、その代わり、適応した場合の効果は非常に高いとデータが出ています」

 全体を見渡すふりをしつつ、やっぱり気になるのは前列の笹川先生。
 最後に視線を向けると、どうやらずっと私を見ていたようでばっちりと目が合ってしまった。

 向けられている視線の答えはどっちだろう。

 掴みは、いいのか悪いのか。
 でも、ここまで来たら、自分を信じて突っ走るしかない。

 きっと大丈夫。自分以外にも、成功を祈ってくれている人がいる。

「余談ですが、酢味噌の掛かった分葱(わけぎ)は歯ごたえもよくて美味しい上、活性酸素の発生を抑制する働きがあり、ガンの予防にも効果的だそうです。弊社の医薬品Bも、新しい抗ガン剤として手応えを感じていただけると思います。ぜひ、よろしくお願いいたします」

 ゆっくり礼をし、目を閉じたときに浮かんだのは、浅見さんだった。
< 84 / 200 >

この作品をシェア

pagetop