恋文参考書
「か、金井くーん。
ちっとも進んでないけどー?」
彼が恋文参考書に書きこんだのは、驚くべきことに『薫へ』のみ。
内容がひとつもないときたもんだ。
いやぁ……まさかそこまで書けないとは思いもよらなかったよ。
『急でごめん』とか『手紙なんて驚いた?』とか、ストレートに『好きだ』からはじまるのもあり、なんて考えていたけど、そういうレベルじゃなかった。
予想以上に書けていなかった。
けなすわけじゃないけど、よくそれでラブレター書くことを諦めなかったね!
そのガッツはいいと思うよ、うん!
思わず心の中で微妙なフォローを入れてしまう。
だけど、言葉にせずとも察しているのか、金井は不機嫌そうな表情だ。
やばい、この人やっぱりこわいや。
作業がしやすいからと隣に座るんじゃなかった。
「……なに書けばいいのかわかんねぇ」
あたしにもわかんないよ!
なにかしら書いてくれないと話はじまらないから。
眩しいほどの金髪が瞳にかかり、眉間にしわを寄せた姿はただのヤンキーでしかない。
いや、まぁ、元々ヤンキーですけどね、この人。
ほぼ真っ白の恋文参考書を見つめる。
ああでも、そういえば、
「……金井って、字が綺麗だよね」
「は?」