好きになれとは言ってない



 今時のモダンな家の前で遥が言う。

「課長、上がってってください」

「なんでだ。
 帰るぞ」

 門の前、階段の下まで来たとき、ちょうど、玄関が開いた。

 荷物を手に、子供を抱いた女と遥の母親が出てくる。

「あ、遥、お帰りー。
 遅いわよ。

 今帰ろうかと、あら、彼氏?」
とこちらを見て言ってくる。

 遥の姉のようだった。

「えっ?
 いやっ、課長が送ってくれて」

「あら、課長さん。
 遥がいつもお世話になってますー」

 いや、隣の課なんだが、と思いながらも挨拶した。

 いつもお世話になります、とあの感じのいい遥の母が頭を下げてくる。

「課長さん、どうやって帰るの?
 駅まで送りましょうか?」
と遥の姉が言うと、後ろから、ぬっと背の高い男が出てきた。

「私が送ろう」

「あ、お父さん」
と遥が笑う。

 は……遥の父親。

 メガネをかけて、背が高く、学者タイプ。

 温厚そうで、威圧感のある人でもないのに、社長を前にするより緊張してしまう。

 何故だ? と自分で思いつつも、頭を下げた。

 なにもやましいことなどないのに。
< 111 / 479 >

この作品をシェア

pagetop