好きになれとは言ってない
今時のモダンな家の前で遥が言う。
「課長、上がってってください」
「なんでだ。
帰るぞ」
門の前、階段の下まで来たとき、ちょうど、玄関が開いた。
荷物を手に、子供を抱いた女と遥の母親が出てくる。
「あ、遥、お帰りー。
遅いわよ。
今帰ろうかと、あら、彼氏?」
とこちらを見て言ってくる。
遥の姉のようだった。
「えっ?
いやっ、課長が送ってくれて」
「あら、課長さん。
遥がいつもお世話になってますー」
いや、隣の課なんだが、と思いながらも挨拶した。
いつもお世話になります、とあの感じのいい遥の母が頭を下げてくる。
「課長さん、どうやって帰るの?
駅まで送りましょうか?」
と遥の姉が言うと、後ろから、ぬっと背の高い男が出てきた。
「私が送ろう」
「あ、お父さん」
と遥が笑う。
は……遥の父親。
メガネをかけて、背が高く、学者タイプ。
温厚そうで、威圧感のある人でもないのに、社長を前にするより緊張してしまう。
何故だ? と自分で思いつつも、頭を下げた。
なにもやましいことなどないのに。