好きになれとは言ってない
 



 他の社員が帰ったあと、航がリストラ候補者のリストを見ながら、小会議室で部長と話していると、誰かがドアをノックした。

「はい」
と返事をし、立ち上がると、経理の若い男性社員、山村が立っていた。

「すみません。
 課長、まだお仕事中でしたか」

「いや、もう終わるところだよ」
と後ろから部長が言う。

「そうですか。
 いえ、まだでしたら、いいんですけど」
と言って去ろうとするその手には携帯があった。

「すみません。
 部長、ちょっと」
と航が振り返り言うと、

「ああもう、今日はいいだろ。

 ……そうだ。
 新海くん、例のコンパ頑張ってくれたまえ。

 円満に寿退社してくれる子が居るのなら、それに越したことはないし。

 幾らか、うちから差し入れてもいいから」
と笑って、部長は帰り支度を始める。

 誰だって、貴方のクビを切りますと言いたくはない。

 一応、リストラに関する業務は航が引き受けてはいるが、所詮、課長だし、一人で出来ることではないので、部長も無関係ではいられない。
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