好きになれとは言ってない
「はい。
 では、失礼します」
と頭を下げると、部長は出て行った。

 山村も一緒に下げて見送る。

「すみません。
 課長いつも此処でひとりで作業してらっしゃるので、大丈夫かと」
と遠慮がちに言ってくるその目は後ろのテーブルに置かれた青いファイルを気にしている。

 心配しなくても、君の名前はない。

 そう言いたかったが、教えるわけにはいかない。

 一応、社長からはあと十人とは言われているが、その程度やめさせたからといって、会社全体からみたら、たいした利益にもならない。

 かと言って、会社が苦しくないというわけでもない。

 これは、いざとなったら、リストラするぞという、言わば脅しだ。

 自分がこうして選考しているという素振りを見せるだけで、みな随分と真面目に働くようになった。

 まあ、それもこっちと同じで、そう見せているだけのことなのかもしれないが。

「あのー、課長。
 僕もよくわからないんですけど。

 古賀さんを迎えに来てください、と優樹菜ちゃ……和田さんが言ってます」

 自分の携帯の番号を知らないので、山村に言ってきたようだった。

「……わかった」
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