好きになれとは言ってない
 




 迷いなく、倉庫に向かってるな……。

 上司に戻りましたとか言わなくていいのか、と思いながら、航は遥の背を見送っていた。

 あいつはいつもあんな不用意に暗がりや密室で男の腕をつかんでいるのだろうか。

 物騒な奴だ。

 自分がちょっとだけ可愛い、という自覚はないのだろうか。

 ちょっとだけだ。

 ちょっとだけだが……。

 だが、あの真尋が、
『おにいちゃん、面食いだったんだね』
と言っていたから、人から見てもかなり綺麗か、可愛いのかもしれない。

 ……ただ、俺の好みだというだけじゃなかったのか。

「ああ、新海課長」
と声をかけられ、顔を上げると、総務の田上(たがみ)部長が居た。

「古賀はお役に立てましたか?」
と笑顔で訊いてくる。

「はい。
 助かりました。

 お手間とらせてすみません。
 お忙しいのに。

 古賀はもう通常業務に戻ってますから」

 いや、隠れてケーキ食ってますけどね、と思いながらも、遥の上司にはそう言っておいた。




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