好きになれとは言ってない
 魚の煮物っぽい。

 醤油のいい香りがする。

 こっちは、白菜の炊いたのかな。

 む。
 この家はカレーか。

 ……ちょっとカレーが食べたくなったが、今日は違うものを食べると心に決めてるからな、と思いながら、遥は足を速める。

 なんとなく郷愁を誘う街だが、もうすっかり日は落ちているので、なんだか怖い。

 振り返ると、街灯の下に猫が立ってこちらを見ていた。

 すらりとした白い猫で、あの日の猫とは違うと思うが、なんとなく、他の世界に迷い込んだよな感じを受ける。

 そのうち、すっくと立ち上がって、しゃべり出しそうなような。

 猫は好きだが、いきなりしゃべられたら、怖いな、と思いながら、足を更に速めた。

 狭い路地を通り抜ける直前、暗い住宅街に、ぽつんと明るい光が見えた。

 ま、真尋さんの店だっ。

 近づくと、店内の様子が窺えた。

 会社帰りのOLさんらしい人影が幾つか見える。

 ほっとしながら、遥は真尋の店の扉を押し開けた。

「いらっしゃ……」

 カウンターの中で言いかけた真尋が言葉を途中で止める。
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