好きになれとは言ってない
「兄貴に連れてこられてから、僕のナポリタンのファンなんだって」

 へー、そうなのー、とにこにこと真尋の話を聞いている。

 きっと仕事帰りに此処に寄るのが息抜きなんだろうな、と思いながら、眺めていた。

 わかる気がする。

 イケメンでやさしい店主が迎えてくれる美味しい珈琲のお店……いや、私は珈琲はちょっと苦手なんだが、それでも会社帰りにこんなお店があったら、寄っちゃうよな、と思う。

 亜紀さんとかに紹介したら、だって、ストレス溜まってるのよーっと言いながら、入り浸りそうだ、と思っていた。

 彼女はにこやかに遥にも挨拶して帰って行った。

「今日は、ひとり?
 兄貴と待ち合わせしてるの?」

「いえ、ちょっと、あのナポリタンが忘れられなくて」
と言うと、

「へー。
 嬉しいね。

 でも、一口もらっただけたから美味しいってこともあるよね」
と真尋は言う。

「僕、昔、おばあちゃんの中華丼一口もらったらすごく美味しかったんだけど。

 自分一人で一皿食べたら、全然美味しくなかったことがあるよ」
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