好きになれとは言ってない
仕事を終えた航は、今日は、焼きそばな気持ちだな、と思いながら、真尋の店の扉を開けた、
振り返った真尋がこちらを見て言う。
「兄貴、遅い。
遥ちゃん帰ったよ」
「遥が来てたのか?」
と言うと、
「なんだ。
ほんとに待ち合わせてたわけじゃなかったんだね」
と言う。
カウンターに行き、腰掛けると、
「実は俺の顔見に来たんだったりして」
と真尋が笑って言うので、無言で見つめていると、
「……冗談だよ。
怖いよ」
と言ってくる。
「たぶん、兄貴が来るかと思って待ってたんだよ。
もう少し待ってたら送っていってあげるって言ったんだけどね」
なんにする? と訊いたあとで、
「でも、よかったね。
堅物なおにいちゃんにも春が来て」
と水を置きながら言ってくる。
「いや……」
と言ったきり、航は黙る。