泥棒じゃありません!
「え……」
入居の時に不動産屋から渡されていた二本の鍵はすべて、この前返したはずだ。
じゃ、これはなに……?
秀樹のLINEは、仕事上で必要になることもあるから、削除はしていない。でも、なんとなくそこから連絡したくなくて、私は社内メールで秀樹に事情を聞くことにした。
『芦澤です。書類と封筒を受け取りました。あの封筒の中身はなんですか?』
社内メールは後ろを通り過ぎる人や、ふとした瞬間に誰かに見られる可能性がある。私は文章に気をつけて、その一文を秀樹に送った。
ほどなくして、傍らに置いていたスマホが震える。内容的にまずいと思ったのか、返事はLINEで送ってきたらしい。
『なにって家の鍵だよ』
秀樹の素っ気ない文にイラッとする。
『二本とも家にあったけど?』
悔しいので、こちらも少し棘を含ませてやった。
『俺、最初に合鍵作って、それ使ってたから』
はあ? と思わず大きな声が出そうになった。そんなこと聞いていない。
不動産屋から渡された注意書きには、鍵は合鍵も含めてすべて返すようにと書かれていた。合鍵を作っていたなら、もっと早くそれを返してほしかった。
思い返せば、私は秀樹のこういうところが嫌だった。少しルーズで自分勝手で、肝心なことを私に話さない。
返事を返す気力もなかったけれど、既読スルーしたらなにか言われそうで、仕方なく“りょーかい”と吹き出しがついているパンダの脱力系スタンプを送っておいた。