泥棒じゃありません!
私はマンションの玄関側から反対方向に回り、信号を渡った。
ビルの前に辿り着いたところまではよかったけれど、ビルにはマンションのように外廊下があるわけでもなく、どこに行けばマンションの方を見ることができるのかわからない。
私はとりあえずエレベーターに乗り、六階のボタンを押した。
エレベーターを降りると、目の前は耳鼻科だった。右側には歯科と税理士事務所が並んでいる。
「あ……」
税理士事務所奥の突き当たりが二股に分かれていて、その左側から光が差し込んでいるように見える。方向的にマンション側だ。
そちらに向かって歩き始めたところで、歯科から出てきた人と遭遇してドキリとした。なにも悪いことはしていないけれど、疚しいことがあるからだろうか。
私は怪しく思われないように、ここのビルに用事があるんですよ、という顔をして通路を左に折れる。
そこには思ったとおり窓があった。
「んー……」
マンションから少し距離があるため、なかなかに見えづらい。こんなことなら、オペラグラスでも持ってくればよかった。
下から六階の位置を数えて、右から三件目の窓を見る。おそらくあの部屋で間違いない。
しばらく目を凝らしていると、なんとなく様子が見えてきた。ベランダが邪魔で見づらいけれど、窓にはなにもついていないように見える。誰か入居したなら、きっと真っ先にカーテンをつけるはずだ。
もしかしたら、まだ誰も入っていないのかも。
そんなほんの少しの期待を抱きながら、すぐにビルを出てマンションへと戻る。一カ月前までここで暮らしていたのだから、住人のふりをするのは簡単だ。