泥棒じゃありません!


エレベーターに乗り、六階のボタンを押す。
途中で誰も乗ってきませんように、と心の中で念じているうちに、エレベーターはポーンという機械音と共に到着を告げた。

ここまで来てしまったからには、もう前に進むしかない。
私はとりあえず、六〇三号室の前まで行ってみることにした。

見れば、玄関脇にある北側の部屋の窓にもカーテンはついていない。

ここは思いきって、インターフォンを押してみるべきか。いやいや、押してもし誰かいたらどうするの。いや、でもこのままじゃなにも解決しないし……。

部屋の前でモダモダしていると、突然ガチャリと音がして心臓が跳ね上がった。


振り向けば、六〇一号室の奥様が扉を開けたところだった。目が合ってしまい、仕方なく引きつった笑顔で会釈する。
引っ越してまだ一カ月という状況だったからか、特別不審がられることもなく向こうも微笑を浮かべながらこちらに頭を下げた。

でも、このままここに立っていれば、あっという間に不審者確定だ。

私はふと鍵の存在を思い出して、鞄を開け、秀樹から返された合鍵を手にする。
六〇一号室の奥様はこちらを特に気にすることもなく、まだこの階に残っていたエレベーターに乗っていった。


「ふー、助かった」

とはいえ、また誰か出てこないとも限らない。それに今……そう、たった今見て思い出したことだけれど、このインターフォンはカメラ付きだった。中でモニターのボタンを押せば、外にいる人間に気づかれずに外の様子を窺うことができる。

「……私、完全にヤバい人だよね」

ただここにいてもヤバいなら、自分が一番いい方向に転がる選択をしなくては。
そう思った瞬間、指はインターフォンのボタンを押していた。


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