泥棒じゃありません!


ピンポーン。

心臓はバクバクと激しく打ち鳴らしている。

息苦しくなりながらしばらく待ってみたが、中からの反応はない。試しにもう一度押してみたけれど、物音ひとつ聞こえてはこなかった。

「やっぱりまだ誰も住んでいないんじゃ……」

その時、よからぬことが頭をよぎった。

今、手にしているこの合鍵、使えたりして――と。

普通は、新しい人の入居が決まった時に鍵が交換されるはず。
もし、この鍵が使えたら、まだ誰も入居していないということにならないだろうか。


「……なに考えてるのよ」

自分で自分を窘めながら、小さく首を横に振る。

もしまだ誰も入居していないとしても、ここに管理会社の許可なく入ることは許されない。
でもこのまま帰ったら、意を決して貴重な休みを半日割いてまでここに来た意味がなくなる。

ごくりと唾を飲みこむ音が耳に大きく響く。


思い返してみると、こういう土壇場での私の運は強かったように思う。

小学生の時、同級生三人で掃除をサボって遊んでいて、私がちょっとその場を離れたタイミングで他のふたりが先生に見つかり、私だけが怒られなかった、とか。

それと、大学時代バイトしていたコンビニではこんなこともあった。店長の代わりにデザートの発注を任された時、入力数をきちんと確認せず、間違って三十個もの焼きプリンが店に届いて途方に暮れていると、近くの公民館で子供会の集まりがあり、一瞬で二十五個も捌けた、とか。

どちらもそもそもが褒められた行動ではないけれど、不思議とこういう時ほど最悪の状況が回避されることが多い。

悪運が強いのだろうか。
私はもう一度、唾を飲みこんだ。

だから今日も大丈夫、とは、いくら私でもさすがに思わない。でも、これまでの経験が「きっと大丈夫だよ」と甘い声で私に囁いてくる。
まったくもって、なんの根拠もないというのに。

私の頭の中で、甘い囁きと自制心が戦っている。

勝利したのは――。

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