泥棒じゃありません!
「……えぇい、なるようになれ!」
小声でそう呟きながら、秀樹から渡された合鍵を鍵穴に差し込む。
思いきって捻ると、カチャ、と扉はあっけなく開いた。
「……う、そ……」
こんなにあっさり開いてしまうと、逆に怖くなってくる。
やっぱりこのまま鍵をかけて逃げようか。
躊躇していると、どこからか物音が聞こえて肩が跳ね上がった。思わずレバー型のドアノブを下げ、身を隠すように家の中へと足を踏み入れてしまう。
扉がカチャン、と音を立てて閉まった。
中に人がいたら、もうなにも言い訳はできない。犯罪者確定だ。
恐る恐る振り返って部屋の方へと視線を向けると、リビングに段ボールがいくつか積み上がっているのが見えた。
……まずい。
新しい入居者が、いる。
でも、なんとなく部屋から人の気配は感じられなかった。
留守なのだろうか。そう言えば、玄関には一足も靴が置かれていない。
このまま誰にも見つからずに帰れば、私の完全犯罪は成立する。なのに、またあの甘い声が余計なことを囁き始めたのだ。
「せっかく入ったんだし、人もいないんだから、ちらっとトイレだけ見させてもらえばいいじゃない」と。
今回の自制心は戦意喪失状態だった。甘い囁きに立ち向かう気配は一切なく、気がつけば私は靴を脱ぎ始めていた。
「ごめんなさい、お邪魔しまーす……」
勝手知ったるなんとやら。私は玄関から真っ直ぐ進み、右手側にあるトイレの扉を開ける。