泥棒じゃありません!


トイレには床の隅にトイレットペーパーの袋が無造作に置かれているだけで、スリッパもマットもなく、便器の蓋にも便座にもカバーはかけられていない。

ここに女性が住んでいるなら、こういうところには真っ先に気を配るような気がする。少なくとも私はそうだ。
男性のみが住んでいるのだろうか。それともまだ、引っ越してきたばかりでなにもされていないだけなのか。

「そんなことより、写真写真」

自分の身長よりも高いトイレの棚の上を、手だけで探ってみる。ひととおり触ってみたけれど、手にはなにも当たらなかった。

「やっぱり誰かに見つけられちゃったかなぁ……」

念のためにもう一度棚を触ってみたが、やっぱり写真らしきものは見当たらない。

「ハウスクリーニングの女の人がこっそり処分してくれたと、信じるしかないか……」


これ以上、もう他人の家になってしまったこの家に長居するわけにはいかない。諦めて帰ろうと、トイレのドアノブに手をかけた瞬間だった。

玄関の方からカチャリと音が聞こえ、口から心臓が飛び出そうになった。

間違いない、鍵の回る音だ。

私が鍵を閉めていなかったために、ガゴンと、逆に閉められてしまった扉の鈍い音が聞こえる。そして、もう一度鍵が開けられた音がした。


…………終わった。

私の人生も、なにもかも。

すぅと、全身から血の気が引いていく。体調が悪い時に出る冷や汗とは似て非なる汗が、額に、こめかみにじわじわと滲んでくる。


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