泥棒じゃありません!


死刑宣告されるまでの間、恐怖で気を失わないようにと、仕事の心配からどうでもいいことまでバカみたいに必死に捻り出した。それもまともに考えられているかどうかも、自分ではまったく判断がつかない。

あの時、鍵なんか使わなければよかった。物音にびっくりしたからと言って、中に入らなければよかった。入っても、すぐに出ればよかった。

……というより、そもそもここにひとりで来なければよかった。

気になると居ても立ってもいられなくなる自分の性格と、救いようのない“見通しの甘さ”を恨めしく思いながら、頭にはひとりの人間が浮かんでいた。


――蓮見裕貴(はすみゆうき)

たしか、彼は今アメリカ支社のBranch managerって肩書きだっただろうか。新人研修からその後一年ぐらい、私の教育係だった人物。

『お前、ちゃんと先の展開まで考えた上で企画書作ってるか?』

『見通しが甘いんだよ』

見通しが甘い。本当にそのとおりだ。
見通しが甘いということは、想像力が乏しいということだ。こういう状況に陥ってもおかしくないと、私はどうして想像しなかったんだろう。

一度、部屋の方へと消えた足音が、こちらに戻ってくる。
住人が部屋に行った瞬間にトイレから逃げ出せばよかったのかもしれないけれど、そんな器用なことが私にできるとは到底思えなかった。

足音がトイレの目の前で、止まる。
扉を開けられたら、精いっぱいのお詫びと共に事情を話そう。それでも警察に突き出されてしまうかもしれない……いや、もしかしたらさっき部屋の方に行った段階でもう警察に通報されているかもしれないけど、とにかく私が今できることはひとつしかない。

ノブに手がかけられる。
ゆっくりと、扉が動く。

十センチほど開いたところで、バン! と扉は勢いよく開けられた。


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