泥棒じゃありません!
「誰だ!」
一瞬見えた相手は、棒のようなものを手にしていた。
「すみません!! ごめんなさい!! ぶたないで……!!」
恐怖で膝が震える。
私は両手の手の平を顔の前に置き、とりあえず頭や顔を殴られないようにと防御した。
「そこでなにをしているんだ」
靴の形状や大きさで気づいてはいただろうけど、実際に相手が女だと確認したからか、住人と思われる男性はさっきよりほんの少しだけ声のトーンを和らげた。
「それに、どうやってここに入った」
「……どうしても、探さなくてはいけないものがあって、合鍵で……入りました」
ダメだ。この説明では、余計不審に思われてしまう。
「でも私はけっして、泥棒ではありません!」
「人んちに無断で、しかも合鍵で入ってるのに?」
男性の言葉には怒りが滲んでいる。
「それは……」
「泥棒じゃないなんて言い訳、信用できるか」
そう言われて当然だ。他人の家に勝手に上がりこんで、泥棒じゃありません、なんて誰が信じるというのか。
「……とはいえ、部屋の方には入った形跡がないようだし、なにもないトイレで盗むと言えばトイレットペーパーぐらいのもんだろう」
相手のいる方向から、なにかを床にコツンと置いたような音がした。さっき手にしていた棒らしきものだろうか。
「警察沙汰にする前に、特別そっちの言い分も聞いてやる」
「……えっ」
思いがけない救いの言葉に、もしかしたらなんとかなるんじゃないかという一筋の光が見えた気がした。
私はとことん考えが甘いのかもしれない。でも今はその光に縋らせてほしい。
私は顔の前から手をよけて、恐る恐る相手を見た。
「……え」
驚いた声が、相手と重なる。
ありえないシチュエーションに、一瞬で頭の中が真っ白になった。