泥棒じゃありません!
「……芦澤……?」
「蓮見、さん……?」
ついさっき頭に浮かんでいた人物が目の前に現れるなんて、誰が予想できただろう。
蓮見さんも驚いた顔でこちらを見ている。
「……なにやってんだよ」
威圧的な声は、呆れ声に変わった。
「す、すみません……」
私は蓮見さんに向かって、下げられるだけ深々と頭を下げた。でもこのあとどうすればいいのか、混乱していてまったく考えられない。
「なんなんだこの状況……わけわかんねーわ」
蓮見さんはそう言ってガシガシと頭の後ろを掻いている。
「……そう、ですよね」
「そうですよね、じゃねーよ……まあいい、いつまでもここで話してるのもなんだから、向こうで話を聞いてやる」
まさか、こんな形で蓮見さんと再会することになるとは夢にも思わなかった。蓮見さんは苦手な人ではあるけれど、次に会う機会があったら、前よりも成長した姿で胸を張って会いたいと思っていた。
……すごく、情けない。
できることなら、今すぐここから消えてしまいたい。私がここにいたことは幻だったと思ってほしい。
気が抜けたら、逆にガクガクと膝が震えてきてしまった。
それをなんとか抑えながら蓮見さんのあとについてリビングに入ると、そこにはいかにも高そうなブラックガラスのローテーブルと、焦げ茶色のふたりがけのソファーがあった。あとは配線が繋がっていないテレビと、さっき廊下側から見えた段ボールが数個置かれているだけ。本当に引っ越してきたばかりといった感じだ。
あまりじろじろ見るのはいけないかなと思いつつ、改めて視線だけで部屋を見回してみる。
一カ月前まで毎日のように見ていたリビングは、もうまったく違う部屋に見える。当たり前と言えば当たり前だけれど、そのことに私はなんとなく安堵した。