泥棒じゃありません!
「そこのソファーにでも座ってろ」
「そ、そんな滅相もないです……私は、床で」
蓮見さんは私を一瞥しただけで、キッチンのほうへと歩いていく。私はベージュ色のふかふかしたラグの上ではなく、フローリングの硬い床の上に正座した。
しばらくして蓮見さんはシンプルな黒いマグカップと、お酒を飲む時に使いそうな焼き物のカップを手にしてこちらに戻ってきた。
「悪いな。家には客用のものなんてないから、適当なもんで」
私の目の前には黒いマグカップが置かれた。どちらも蓮見さんが普段使っているものなのだろう。
蓮見さんはすでに、もうひとつのカップに口をつけている。
「飲み物を出してもらうような立場じゃないのに……お気遣いすみません」
「別に、俺が飲みたかっただけだし。それに――」
蓮見さんもラグの上ではあったけれど、床に座って胡坐をかいた。
「さすがに頭が混乱してて、ちょっと冷静になりたかったっていうか」
そうでしょうとも、そうでしょうとも。
「すわ、泥棒か!?」と犯人を追いつめてみれば以前の部下だったなんて、わけがわからないし、笑い話にもならないだろう。
蓮見さんは飲み物をもうひと口呑みこんで、テーブルにカップを置いてからこちらを向いた。
「まず、どうして芦澤がここの合鍵を持っているんだ?」
「それは……」
少し前までここが私の家だったので、と言いかけて、言葉を呑みこんだ。
それを話せば「ここに一人で住んでいたのか?」と話が展開するに違いない。私のお給料だけで、ここを借りることは不可能だ。仮に友達と住んでいたと言ったとして、そのあとボロを出さない自信がない。