不安の滓
 その日、いつもと違ったこと。

 それは俺のスーツをハンガーに掛け終わった彼女が台所に向かい、包丁を手にして戻って来たことだ。

「な、何をしてんだよ!!」

 焦って制止しようとした。
 しかし、俺のその行動が彼女の神経をさらに昂らせてしまったのだろうか。

「う……裏切られるくらいなら!」

 そう叫びながら、彼女は俺に切りかかって来たのだ。

 今思えば、彼女はゆっくりと精神を蝕まれていて、その時には既に壊れてしまっていたのだろう。
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