不安の滓
「これは! これは何なのよ!?」

 俺のスーツをハンガーに掛けながら愛子が叫んだ。
 愛子が手に持っていたのは――俺の会社の取引先、その担当者である女性の名刺だった。

――また始まったか。

 そう思いながらも、これ以上面倒なことになるのは御免だと思い、ウンザリしながらも愛子の質問に答える。

「ただの仕事関係の人だよ、何もやましいことがある人じゃない」

 いつもなら、その言葉に彼女が多少の文句を言って、言いたいことを言ってしまえば落ち着いて、それで終わる――はずだった。
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