不安の滓
(しかし……)

 ラジオの話の内容を聴きながら、少し苦い思いが男の頭の中を駆け巡る。
 というのも、ラジオのボリュームを上げた直後に聞こえた会話の内容。『ホーム』、『落ちる』というキーワードである。

――男が残業になってしまった原因。

 つい先日、男の同僚が駅のホームで転落事故を起こしたのだ。
 別に突き落とされた訳ではなく、酔っ払って足をもつれさせて転落。助け上げる間も無く、すぐさまやって来た電車に轢かれて死亡ということだった。
 周囲に居た、複数の客の証言もあり、事件性はまるで無い事故だった。

 その同僚が残していた仕事、それを男が一時的に引き継ぐことになってしまい、普段の仕事プラス余計な仕事を背負い込んでしまった為に、こんな深夜に及ぶような残業をすることになってしまっていた、という訳である。

 車は、なおもカーブが続く雨の山道を進む。
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