不安の滓
『そんで寂しいもんでねー』
『何が寂しいの?』

 ラジオの中では、二人の会話が進んでいるようだった。
 一人が話し、もう一人はそれに相槌を打っているだけのようである。

 男は、時折ラジオの声に耳を傾けながらも視界の悪い道に注意しながら運転を続けている。山道は、既にただの雨と呼べない程に雨粒で視界を埋め尽くし、一メートル先を確認するのがやっと、という程の霧に覆われてしまっていた。

(――対向車が来ないのが幸いだな)

 普段であれば、もうそろそろ自宅が建つ住宅地に辿り着く程の時間が経過していたが、視界と足元の悪い中である。
 車の速度は限界まで遅くなり、それに伴って男の帰宅時間ももう少し後ろにズレ込んでいた。

 ラジオからは、耳に障るような笑い声が響いている。
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