猫かぶりな伯爵の灰かぶりな花嫁
髪や目の色、貌の作りといった姿形だけではない。たおやかな容姿の内側に、決して曲がることのない信念を持っているところまで、フィリスは母親にそっくりだった。
十五才に成長した彼女と数年ぶりの再会をしたとき、ロザリーが生きていたのかと思ったほどだ。

その後、フィリスとラルドの間に縁談が持ち上がっている噂を聞き、やはりと妙に得心する。政略的にもそれは妥当だと思われた。

そんなフィリスでも、ラルドの『一番』の座をロザリーから奪うことはできなかったというわけだ。

王宮の醜い争いに巻き込まれて命を削ったロザリー。望まれて嫁ぐはずの結婚に不安を抱き、自らの生涯を絶ってしまったフィリス。
彼女たちだけではない。自分の意思とは関係なしに生きる道を定められ、政に、男たちに翻弄される女たちが、この世界にはなんと多いことだろう。

「だからって、なにも死ぬことはなかったのよ」

手の平に冷たさを伝える石をなじってみたところで、当然返答などない。

たとえ夫の心に、自分以外の女性が住んでいたとしても。愛する人の子どもを産むことができなくても。

自分はその事実から逃げたりなどしない。

美しかった姪の早すぎる死を悼みながらも、浅はかな行動を非難する気持ちを捨て切れずにいた。

ふと、重ねて握った両手を置いた胸がささやかな違和感を訴える。
果たしてフィリスはそのような娘だったのだろうか。

叔母と姪という間柄でありながら、フィリスと顔を合わせたのは片手で足りるほどだ。交わした会話など、一言一句を覚えていられるくらいに少ない。
それでもグレースは、彼女の宝石のような紫の瞳に、内にこもるなにかが漏れ出てしまったような強い光があるのを感じとっていた。

そんなフィリスがなぜ命を捨てたのか。

突如としてわいた疑問は、不意に背後から吹いた強風に遮られる。髪や裾が風を孕んで大きくなびく。
とととっと、湖に突き出た丘の端まで煽られたグレースの視界の片隅が、風に踊る白っぽい欠片を捕らえた。

薔薇の花びらだろうか?なかなか落ちてこないそれに、グレースは思いっきり手を伸ばした。
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