ほしの、おうじさま
それ以降はもちろん一人立ち。


「台所仕事は家でもやってるだろうし、茶器の洗い方を手取り足取り教える必要はないだろうけど、各備品の在りかなんかは一度ザッと説明されないと分からないもんね。だからその日当番の派遣さんと一緒に行動して。私から渡辺係長に話を通しておくから」


先輩女性社員の大塚さんにそう指示された。

足手まといにならないように頑張らなくちゃ、と今からちょっとドギマギしている。

と、あれこれ考えている間に給茶機が動きを止めた。

カップを手に取り、ミルクと砂糖を入れるべくカウンターの前へと移動した所で、誰かが室内に入って来る足音がした。


「あ」


反射的に出入口へと視線を向けた私は思わず小さく声を上げてしまった。

颯爽と姿を現した人物は、我が愛しの星野央路君だったから。

実は彼の所属する企画開発部も同じ5階にあり、よって給湯室も同じ場所を利用する事になるのだ。

ただ、マーケティング課は担当業務によって休憩時間が他の課と若干ズレるので、せっかく同じフロアで働いていてもそう頻繁に遭遇できる訳ではないだろうな~と思っていた。

しかし、約一週間経過した現時点で早々に彼と鉢合わせする事ができた訳だ。

今後への期待が膨らむ、なかなか幸先の良いスタートなのではなかろうか。


「お、お疲れ様です」

「あ、おつかれさま」


私の声かけに、星野君は爽やかな笑みを浮かべながら即座にそう返してくれた。
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