ほしの、おうじさま
すると、それまでとても気だるげで覇気の無かった高橋さんの表情が、いきなりガラリと変化した。

「私、0to0ホールディングス宣伝部マーケティング課、高橋と申します。矢井野様の携帯電話にご連絡差し上げているのですが、ご本人様でお間違えないでしょうか?」

彼の中の、今までオフ状態だった何かのスイッチを、誰かが遠隔操作にてオンにしたかのようだった。

「さようですか。今週火曜日にお問い合わせいただきました件について、回答させていただきたいのですが、今、お時間よろしいでしょうか?」

私が度肝を抜かれている間に先方が出て話は進み、高橋さんはそう切り出した。

「ありがとうございます。まずは回答を差し上げるまでに、かなりのお時間をいただいてしまいましたこと、深くお詫び申し上げます」

これまた普段の高橋さんとは180度違う、とても明朗快活で流暢な口調。

「それでは経過報告をさせていただきますね。当該店舗に確認いたしましたところ、当日対応したスタッフはお客様とのやり取りを覚えておりまして、自分の至らなさに後から自己嫌悪に陥り、とても反省していたようです」

まるでアナウンサーさんやベテラン声優さんの、ナレーションの録音現場に遭遇しているかのようだった。

「そしてお客様に対し、『その節は誠に失礼な対応をしてしまい、申し訳ない事をいたしましたとお伝え下さい』との事でした」
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