ほしの、おうじさま
そもそも更衣室での身支度を終えたら野崎さん達はまたここを通る訳で、本人に話を聞かれてしまうかもしれないリスクは避けたいのだと思う。

なので、先に歩き出した富樫さんに続き、エレベーターホールを通り過ぎて階段室へと向かった。
踊り場まで来た所で立ち止まり、改めてお互いに向かい合ったのと同時に富樫さんは口を開く。

「私、支部支援課に配属になったじゃない?」

「うん」

「私はまだ内勤のデスクワークを覚えてる段階だけど、ウチって業務の特性上、男女関係なく外回りに出かけたり、各支部から研修や報告会目的で本部を訪れた社員を迎い入れたりするからその分受付担当者と接する頻度が高くて…」

音がかなり反響してしまう空間なので、野崎さんの声はとても押さえ気味だった。

「数日前の昼休憩時、女性の先輩がこっそり愚痴ったんだよね。「今年入った受付の子、男性社員にはすんごく愛想が良いのに、女性に対してはおざなりなんだよな」って」

「え…」

「そうしたら別の先輩が「おざなりどころか、あの子が一人でカウンターにいる時、私思いっきり無視されたよ」ってその話に乗っかって来てさ」

「えと…。受付は必ず二人体制じゃなかったっけ?」

「その時は、もう一人の担当者はどこかにお客様を案内しに行っていて不在だったんだと思う」
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