ほしの、おうじさま
阿久津君の指摘を受け、私は慌てて流しに向き直ると、再び給湯器を作動させた。

そしてカップを回収する為に使ったトレイ2枚をざっとお湯で洗い、布巾で水気を拭き取り背後のカウンター上へと戻す。


「……私も別に職場で関わる人すべてと仲良くなって、密に接して行きたいと思ってる訳じゃないよ。公私の区別はきっちりとつけておきたいし」


次いで、マーケティング課と宣伝課のポットを手に流し前に戻り、中身を軽く濯ぎながら話を再開した。


「だけど、とてもじゃないけど阿久津君みたいなあからさまな態度は取れないな。親密にはならなくても良いけど敵にもなりたくないというか…。それでなくても私、変な誤解を与えて周りとギクシャクしちゃう事が多いのに、単独行動を貫いたりしたらますます反感を買っちゃうよ」


外側の水滴を布巾で拭き取ってからこれまたカウンター上に戻し、再度流し前に立って私はため息混じりに言葉を続けた。


「そういう点、阿久津君て尋常じゃなくメンタルが強いよね」

「何だ?今まさに、現在進行形で、誰かとギクシャクしてるみたいなニュアンスだな」

「あ、うん…」


一瞬躊躇したけれど、阿久津君が第三者にそのエピソードを広める事はないだろうと瞬時に判断し、暴露してしまう事にした。


「実はそうなんだよね…」


またもや注意を受けないよう、もちろん手は動かしながらの返答だ。
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