ほしの、おうじさま
その間に阿久津君はカップの収納を完了させ、キッチンペーパーを手に取りトレイを拭き始めたので私も当初の目的を果たすべく動き出した。


「俺はバス通勤なんだけど、研修初日の帰り、停留所に立ってたら駅に向かって歩いていたらしいアイツに見つかってさ。「同期の阿久津君だったよね?私野崎です。これからよろしく」から始まって、バスが到達するまでなんやかんや一方的にどうでも良い話を聞かされて。しかもそれが数日続いたもんだからすっげーうっとうしくなって、もう一個先のバス停を使う事にしたらうまいこと避けられるようになった。部署に配属になってから本来の停留所に戻ったけど、それ以来かち合わずに済んでる」

「そ、そうだったんだ…」

「ああいう、「誰とでも分け隔てなく話せちゃう、明るくておおらかでさっぱり気質のイケてる私」を全面に押し出してる女ってのは、俺にとっては超地雷なんだよな」

「……野崎さんが阿久津君に積極的に話しかけたのは、それをアピールしたかったというのが理由ではないと思うけど…」

「は?」

「あ。な、何でもない」


すでに誰か(おそらく我が課のオペレーターさん)が調合してくれていた漂白液に布巾ちゃん達を浸しながら思わず呟いてしまった私は、慌ててそう誤魔化した。


「と、とにかく、今私は野崎さんとはかなり気まずい間柄になっちゃってるんだよ」
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