ほしの、おうじさま
そんな事を考えつつ歯ブラシに粉を付けて、口内をシャカシャカし始めた所で向井さんがマウスウォッシュを手に現れた。

「お疲れ様」

「あ、おふかれさま」

私が間の抜けた返答をしている間に向井さんは手早く準備をして液体を口に含んだ。
口内の洗浄を終えて、コップを兼ねているキャップを洗ってティッシュで水気を拭き取り、本体に戻す。
そしてティッシュを背後のゴミ箱に投下し、鏡に向き直ってから「ふ~、」と深く息を吐いた。

「……どうかしたの?」

「あ、ごめん」

そのため息は思わず出てしまったものであるようで、向井さんは私に視線を合わせつつ慌てて釈明した。

「何だかすんごい疲れちゃったなーと思って」

「新入社員研修の初日だもんね」

様々なレクリエーションが目白押しだったし。

「うーん。それもあるんだけど、個人的にちょっと…」

「え?」

しばし言いよどんでから向井さんは意を決したように話を再開した。

「星さんには正直に言っちゃうね。実は私、野崎さんみたいなタイプの人って、超絶に苦手なんだよね」

「え」

「まだ大した時間一緒に過ごした訳でもないのに、「何が分かるんだ」って思われるかもしれないけど」

その唐突過ぎる意外な告白に私は目を見張り、思わず動きを止めた。
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