ほしの、おうじさま
左手首を捻り、チラリと腕時計を確認しながら陣内課長は続けた。


「まだ30分以上ありますが」

「それが、渋滞を見越して移動して来たら、予想外に早く到着してしまったそうなんです。それで先方は、時間まで地下駐車場の車中で待機なさるおつもりだったらしいのですが、外出から戻って来た社員が気付き、総務部に内線を入れまして…」


女性は訥々と説明を続けた。


「それで部長が中にお通しして、「もし可能ならば打ち合わせを早めたいので、参加者に確認するように」と指示を出されたんです」

「…そうですか。分かりました」


答えながら課長は机上を手早く片付け始めた。


「私の方はちょうど区切りがついていますので、すぐに向かいます」

「はい、よろしくお願いいたします」


さっと頭を下げ、女性がドアを閉めた所で陣内課長は私達に視線を配りながら声を発した。


「という訳ですので、予定より早いですが私はここで失礼します」


言葉通り、陣内課長が3時過ぎに研修から抜け出す事は前もって周知されていた。

社内システムで改善させたい箇所があるらしく、以前より保守管理を担ってもらっているDDCというシステム開発会社を呼び寄せ、3時半から打ち合わせを行うらしいのだけれど、陣内課長も参加メンバーの一人なのだ。

そして研修の方は庶務課の係長が引き継ぎ、社内設備の利用法や備品の管理について解説して下さるらしい。
< 69 / 241 >

この作品をシェア

pagetop