好きにならなければ良かったのに
午後になりやっと会社へ顔を出した幸司だが、営業部一課へ入るなり周囲からの視線を一斉に浴び、その雰囲気が異様なものだと気付く。吉富は黙々と仕事を続けているが、悪ふざけの好きな吉富が真面目に仕事をしていることに、幸司は何かあったのだろうと晴海の顔へと視線を移す。
晴海は幸司と視線が合うとプイッと顔を逸らしてしまう。隣の相田へも目をやると、相田は慌ててパソコン画面へと視線を移す。その近くでコピーを取っていた梅沢を見ると、目が合うなり知らん顔をされてしまう。
(一体何が起きたんだ?)
この異様な職場の雰囲気の悪さに、業務を続けていくのがかなり億劫になりそうな気配だ。自分のデスクへと歩いていくと、香川が幸司を見るなりフッと笑う。
(今日一番の奇妙な反応だな……)
仕事には真面目で吉富の様な悪ふざけを嫌い、冗談も言えない様な香川でさえ幸司を見て反応を示した。と言うことは、幸司が遅れてきた午前中に何かがここで起こったのには違いないと、幸司にはそうとしか思えなかった。
そこで、考えた幸司は自分のデスクへと座ると営業部一課の社員を全員集めた。
「話がある、皆、集まってくれ」
幸司のその一言で営業部一課の皆は、仕事の手が止まると一斉に幸司の方へ視線を集め、その場は静まり返る。そして、息を飲む社員らは誰もがその場から動けない。
「あの、何かあるんですか?」
相田がデスクに座ったまま幸司にそう訊く。すると、一斉に社員らの視線は相田へと向けられ、その次に幸司へと視線が移る。そのあからさまな態度に幸司は頭痛がしそうになる。
「新人が入ったことで、今年は少し人事を考え直そうと思っている。皆の意見を聞きたいから集まってくれないか?」
「でも、今日は大石さんは休みなので全員揃いませんよ?」
香川がすかさずそう訊くと、幸司は少しムッとした顔を見せる。
「構わない。彼女の配置は私が決める。それから、佐々木、君の意見も聞くつもりだから自分の思ったまま話して貰う」
「あ、はい」
いきなり名指しされ戸惑う佐々木は椅子から立ち上がると課長デスクへと駆け寄る。それを見て他の社員らも課長デスクへと集まって行く。
そんな中、晴海だけはデスクから動かずに自分の持ち場から離れなかった。それを見た幸司は「来ないヤツは私の判断で配置換えを行う。その代り同じ営業一課だとは思うな」との厳しい言葉に、幸司から離れたくない晴海は渋々と幸司のデスクへと向かう。