好きにならなければ良かったのに

「兎に角だ、希望が有れば言って欲しい」

 コホンと咳払いをすると幸司は周りの顔色を窺いながらそう訊く。最近のギクシャクした雰囲気を取り除き、もう少し前向きになれるようなチームを組ませてみたいとも考えた。

「課長、個人的な希望を言っても良いですか?」

 まず最初に挙手したのは香川だ。美幸が入社してから、自分の補助にと希望していた香川は、ここでももう一度幸司に懇願する。

「大石は何か事情があるのですか? 今日も休みのようですが。その理由次第では考え直す必要がありますが、私は彼女が欲しい」

 香川は『補助として欲しい』と話したつもりだが、幸司を始め周りの社員ら皆が『欲しい』と言う言葉を聞いて顔を赤らめている。相田に関しては両手で頬を押さえ真っ赤になっている。それを見た香川は少し眉間にシワを寄せ目を細め言い直す。

「皆が何を誤解しているのか知らないが、私は営業のチームを組む相手として大石を希望しているだけだが?」
「ですよね、香川先輩。ちょっと、今の言い方には俺ビビりましたよ。先輩は女には興味ないんですよね?」

 吉富がそう突っ込むと、『女には興味ない』と言うセリフに一同が一斉に香川を見てしまう。香川は、何故こんな職場に自分がいるのか呆れ果て溜め息が出てしまうと、しっかり言い返していた。

「私は女が好きだ。変に勘ぐるな。それに、今はそんな話をする時ではないだろう。真面目に人の話を聞け、吉富」
「香川、吉富は無視しろ」

 幸司は吉富の突っ込みに救われたと思ってしまった。吉富を非難する一方で、自分も思わず香川の『欲しい』発言を誤解しそうになった。そして、美幸を本気で狙うなら香川を相手にどう戦うのか。そんなことが一瞬頭の中を過る。

「大石は来週には出てくるだろう。大石も佐々木も研修は今日までで、来週からは誰かと組んで仕事を始めてもらう。佐々木、研修を受けてどうだった?」
「はい、予想以上に得意先確保のための情報収集やこの仕事の知識の大切さを知りましたが。大きな企業が相手だと思うと考えがついていけなさそうで尻込みしそうです」

 新人らしく初な態度を見せる佐々木にその場の雰囲気が元に戻る。

「そうだな。他の課とは違いここは大手を対象にした営業課だ。システムの知識もしっかり持ってもらう必要がある。だから、チームを組み直し下がり気味の士気を高めようと思う」

 幸司もまたさっきまでとは違い気の引き締まるような話をする。

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