好きにならなければ良かったのに
「女性達諸君にも訊くが、補助としての仕事以外を希望する者はいるか?」
幸司が女性社員らに目を配ると、躊躇うこと無く相田が名乗りを揚げる。
「特定のチームを組むのでしたら、私は仕事に私情を挟まない相手と組みたいです」
相田のハッキリとした物言いに誰もが頷きながら幸司の顔を見る。それは明らかに幸司が個人的感情で仕事をさせていると、誰もがそう感じているようだ。
「それに補助業務だけでなく積極的に仕事に関わりたいんです」
「相田は前向きだな。ただ、これまで開拓した得意先は未だに保守的な会社が多い。それは、私と同行していた日下なら良く分かるだろう?」
晴海は突然話を振られ困った顔をする。他の事を考えていた晴海はどう答えを返して良いのか悩む。
仕事中なのに晴海は、昨夜の電話に青葉が出てからと言うもの心が騒めいているのだ。幸司が本気で美幸を愛してるのか、今朝も二人でそんな時間を持ったのか。また幸司が自分を裏切ったのかと、次々と押しせる疑問と嫉妬に駆られ晴海の頭の中はグチャグチャになっている。
「どうした、日下?」
「私は課長とチームを組みたいです。他の人と組ませるようなことはしないで」
周りからの視線など気にせず自分の気持ちを真っ直ぐに幸司へと向ける。そんな晴海にその場は静まり返る。
「残念だが、今回この課を一新させたいと思っている。だから、それはないと思っていてくれ。それから、大石の件だが暫くは私の下で業務をさせる」
幸司の言葉に晴海はその場から逃げ出すように出ていく。そんな晴海を見かねて吉富が後を追う。
残された社員らは困惑した顔をしてお互いに見合わせる。
「全員が揃わないならこれ以上の話し合いは無意味だな。各自仕事に戻ってくれ」
其々が自分のデスクへ戻って行くが、香川だけは動かずに幸司に質問する。
「大石部長が入院されたと聞きましたが、彼女は部長の娘ではないですか?」
「だとしたらどうする?」
「課長が彼女を手放したくない理由に納得できるからです」
意味深な言葉を残し自分のデスクへと戻っていく香川を見て、幸司は少し思い悩む。美幸が会社にとって大事な社員の娘だから手放したくないのかと。
晴海が出ていった事より香川の言葉の方が気になる。
そして、更に香川に意外な言葉を突きつけられ幸司は戸惑いを見せる。
「彼女と仕事をしたら楽しそうですよね」
それは香川の男としての発言に聞こえ幸司の胸の騒めきが激しくなる。