好きにならなければ良かったのに

 すると、二つ目の理由を香川が言う。

「二つ目は課長が君を他の社員と組ませたがらない。本来ならば営業部一課で一番の営業成績を誇る私が望むのなら、それは叶えられても良さそうな話と思うのだが、課長に却下された」
「そうなんですか?」

 何も聞かされていない美幸は思わず顔を上げて香川を見た。香川は運転しながら横目で美幸を見るとフッと笑う。その笑い顔に美幸は再び顔を下げる。

「それに、課長は君のことになるとかなり神経質でね。まるで人が変わった様に君を阻止する」

 それはどうとらえて良いのか、美幸は少し胸がドキッとする。自分の妻だからとそんな態度に出ているのならばどんなに嬉しいことかと、美幸は頬を赤く染めそうになる。

「第一に、君はあの大石部長と良く似ている」

 それが一番の決定的な理由だと、鈍感な人でもすぐに分かりそうなものだ。どんなに理由を並べようとも、やはり親子としての身体的特徴を挙げられるのが一番納得出来るものだ。
 それまでのいろいろな理由を聞かされても、正直に素性を明かすつもりはなかった。
 しかし、やはり最後の止めの様に言われれば知らん顔など出来ないと美幸は諦めた。

「父と似てるんですね。ちょっと意外でしたけど」
「やはりそうか。でも、これで合点がいくというものだ。何故課長が君を放したがらないのか、全ては部長の気を引こうとする為の戦略とでも言った方が良いのだろうか?」
「課長が私を放したがらないなんて、そんなことはないです」

 それは『部長の娘だから幸司の傍に置いてもらえる』と、そう聞こえてしまう美幸は胸が締めつけられそうになる。もう何年も味わって来たこの苦しみはこれ以上味わいたくない。
 なのに、香川は容赦なく美幸に苦痛を味合わせようとする。

「そう言えばだいぶん前の話だが課長は結婚したと聞いているが」
「……そうなんですか」
「課長の結婚当時、私はまだ入社して長くない頃でね。今の君や佐々木と似た様な立場だったんだが。課長の結婚相手が誰かは詳しくは聞かされていないが、部長の縁続きの人だとは噂に聞いてね」

 「縁続き」と言葉を聞かされて美幸はドキッと心臓が飛び出しそうになる。もしや勘の良い香川のことだから自分が幸司の妻だと気付かれたのではないかと、思わず顔が引き攣ってしまった。
 そんな美幸の表情を運転しながら見ていた香川は小さな溜息を吐く。

「私の勘はアタリで良いのかな?」

 美幸はとても頷ける状態になく窓へと顔を向けて香川から視線を逸らした。

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