好きにならなければ良かったのに

「日下も君の存在は知っていたんだろう?」
「さあ、どうなんでしょう?」
「戸田は分からないが、吉富は気付いている様だ。ああ見えても吉富は観察力は凄いからな。流石の私も舌を巻くほどだ。それに、女の事となると目の色が変わる。あれだけの能力をもっと仕事に活かせば吉富はもっと素晴らしい業績を上げるだろうがな」

 嬉しそうに微笑みながら言う香川に、美幸は不思議に感じた。職場ではあまり吉富とは仲が良いとは思えないし、雰囲気的に二人は対照的な存在の様にも感じる。
 そんな吉富を褒めるようなセリフを香川の口から聞けるとは思ってもいなかった。

「あの、吉富さんのこと嫌っているんじゃないんですか?」
「そうだな、あまり好意的には思えない。しかし、吉富はああ見えても一途な男だ。私とはその点かなり違っているな」

 吉富が一途で香川は違う、それは、香川は一途ではなく女なら誰でも受け入れる、そんなタイプの男性を意味するのだろうかと美幸は少し考えてしまった。どう見ても外見では吉富が誰でも来いというイメージがあり、香川が一途で純粋な恋愛をしそうに見える。

「意外でした…… そうは見えないですが」
「だから、今、君を車に乗せているじゃないか」
「え?」
「きっと、吉富の助手席はアイツの女以外は乗せないだろうけどな」

 フッと笑う香川のその笑みが急に怖く感じると、美幸は香川について来たことを後悔し始める。

「下ろしてください。私はそんなつもりで乗ったんじゃないです」
「君が誰とどうなっていようが私には関係ない。ただ、これから先のことを話し合わないか?」
「話し合う? これから先って何ですか?」

 美幸が窓の外へと目をやると、いつの間にか車は病院の駐車場へと入って行っていた。香川にどこかへ連れ去られるのかと一瞬不安になったが、父親の入院する病院の駐車場へ入ったことでホッと胸を撫で下ろしていた。

「着いたぞ」
「……」

 ホッとしたものの、謎めいた香川の言葉に一緒に病院へ来て良かったのか悩み始める美幸は、助手席のシートベルトを外すに外せなくジッと動かずにいる。すると、美幸を見た香川が大きな溜息を吐き、ハンドルから外した手を再びハンドルへと戻しギュっと握り締める。

「私と組む気はないか?」
「え?」
「君は私の下で仕事をやってみる気はないか?」

 意外な香川の申し出に美幸は俯いた。

< 114 / 203 >

この作品をシェア

pagetop