好きにならなければ良かったのに

「では、私と一緒に来てください」
「……」

 妊娠の有無を調べる検査を何故他人である青葉と一緒に受けなければならないのか。それが侮辱に感じる美幸は大人しく診察を受ける気にはならない。

「幸司さんと一緒に受けます」
「いいえ、その前に知る必要があるのです」
「何の為に?」

 青葉は「さあ」とだけ言うが、どうみても惚けている様にしか感じない。全ては社長の指示通りに動いている社長直属の部下だ。社長が「診察を受けさせろ」と言えば、青葉でなくとも美幸もそうせざるを得えない。
 相手は社長であり家長でもある。だから、その頂点に立つ人物に逆らうなど出来やしないのだ。

 美幸には最初から分かってい乍ら、それでも、やはり産婦人科への診察を幸司以外の男と一緒に受けたくなかった。

「……分かりました」
「では、こちらへどうぞ」

 美幸が案内されたのは、目の前にある病院ではなく駐車場の車だった。

「診察は?」
「ここの病院ではありません。社長夫人も課長を出産された時に入院された病院です」
「幸司さんが生まれた病院?」
「はい。なのでご安心下さい。社長は心よりあなたの体を心配されているんですよ」

 妊娠なのかそれとも病気なのか、美幸にはいったいどちらなのか自分でも分からない。ただ、一人不安に押しつぶされそうになった時に、タイミング良く現れた青葉に本来は感謝すべきなのかもとも思えた。
 反発はしたものの、幸司と一緒に病院へ診察などいけない美幸には、青葉の存在は今は有難いのだと少しは認めなければならないと思えた。

「こちらの車です」

 後部座席のドアを開けられ乗せられて気付いたが、青葉が用意した車は普通の家庭にある自家用車とは違う。会社の重役などが使用するような、グレードの高いシートや内装、そしてゆったりと広い後部座席に美幸は息を飲む。

 そして、診察を受ける病院へと行く。そこまでの距離はほんの僅か。目と鼻の先程の所にある病院だ。そして、そこの病院へと到着すると、診察時間は過ぎていたが美幸が来るのを医師らは待っていた。
 青葉が受付など全てを済ませると美幸は診察室へと呼ばれる。そこで問診を受け、内診と超音波検査などを受ける。

「おめでとうございます。妊娠4か月になりますね」

 医師の言葉に美幸は呆然となり目の前が真っ暗になりそうだった。

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