好きにならなければ良かったのに

「美幸、俺と結婚してくれないか? 俺には美幸だけなんだ」


 憧れた男性からのプロポーズだった。
 薔薇の花束を持って現れたその人は、美幸の心を一瞬で掴んでしまい「イエス」という返事をさせた。

 そんな彼との出会いは、美幸の父親が勤務する会社の創立記念パーティだった。

 その日、美幸は父親に誘われて、父親の勤務する榊セキュリティ株式会社の創立記念パーティへと出掛ける。そのパーティには美幸の心臓が止まるかと思うほどに目を惹いた男性がいた。

 まだ、ほんの十八歳だった当時高校三年生の美幸にとって二十五歳の彼は大人でセクシー過ぎた。しかも、雑誌から飛び抜けてきた様なデザインスーツを身に纏い、濃紺な色合いがシックでそれでいてとても華やかで、整った顔立ちが更に彼をより魅力的に素敵な男性へと醸し出していた。

 まさしく洗練されたモデルを思わせる姿に、美幸だけでなくその場に居合わせた誰もが彼から目が離せないほどだった。それほどに彼は魅惑的な男性だった。

 そんな彼が美幸に声を掛けた。恥じらう美幸は、魅惑的な男性を前にしどろもどろになり上手く受け答えは出来なかったが、それでも楽しい会話をすることが出来た。そして、その夜、そんな彼に美幸はデートを申し込まれてしまう。勿論、美幸は彼との幸せなデートを夢見て頷いていた。

『可愛いね』

 何度もその言葉を囁かれ有頂天になった美幸は甘いキスをされる。デートの度の甘い口づけに天国気分を味わう美幸は幸せそのものだった。そして、数回目のデートで彼は美幸にプロポーズをしたのだ。



「俺の妻は美幸だけだ、美幸以外考えられないんだ」

 甘く囁かれ激しいキスをされたら美幸には『イエス』以外の言葉は見つかる筈もない。

< 2 / 203 >

この作品をシェア

pagetop