好きにならなければ良かったのに
「幸司さん、結婚するわ! 大好き!」
プロポーズをしたデートの帰り、早速美幸を連れて自宅へと急いだ幸司は父親に結婚すると報告した。
あまりにも性急過ぎないかと美幸は困惑したものの『早く結婚したいんだ』と幸司に微笑まれては何も言い返せない。
そして、その言葉に頭がクラクラした美幸は幸司と一日も早い結婚式を夢見るようになる。
それから両家揃っての食事会に始まり、結婚式の打ち合わせなどトントン拍子に進んでいき、美幸はこんなにもあっさりと話が進むものなのだろうかと怖くなる程だった。
「美幸、幸司君に幸せにして貰うんだよ」
「うん」
「彼はまだ修業の身で何かと大変な時期だ。社長の一人息子なのにそんな態度を見せずに他の社員同様頑張っている素晴らしい人だ」
「うん」
「お父さんは安心して美幸をお嫁に出せるよ」
「うん!」
美幸は両親に祝福され、会社の社長である幸司の両親からも祝福を受け結婚式を挙げることになった。純白のウェディングドレスに包まれて純真無垢な花嫁は大好きな男性の許へと嫁いでいく。
「美幸、しっかり二人で家庭を築いて行こう」
「うん!」
まだ、あどけない表情を見せる初々しい花嫁はこの時はまだ高校を卒業したばかりの大石美幸十八歳だった。そして、花婿となったのは社長令息でその会社で開発も手掛けながら営業主任として勤務する榊幸司二十五歳の青年だった。