好きにならなければ良かったのに
「課長、奥様。おめでとうございます。お子様の性別はもう分かっているんですか?」
平気な顔をしてそんなセリフを言う晴海に、周囲からの視線を一斉に浴びてしまう。特に梅沢や戸田のビックリした顔を見て、晴海はにっこり微笑み返す。
「いや、どっちなのかは生まれるまで楽しみに取っておこうかと美幸とそう話し合っているんだ。なあ、美幸」
優しく微笑む幸司に美幸もにっこり微笑んで「ええ」と答える。二人の仲睦まじい様子は雰囲気だけで伝わってくる。これまで、あれ程晴海と噂をされていたけれど、今の幸司と美幸の二人を見ているとそんな噂は嘘なのだろうと、周囲の者にそう思わせるものがある。
その後、美幸はしっかり皆への挨拶を済ませると、この日早退を予定していた幸司と一緒に帰宅していく。
二人が会社を出た後の営業部一課では、美幸の妊婦服姿の挨拶が少々衝撃的な出来事だったのか、しばし二人の話で盛り上がる。すると、やはり誰もが気になったのが晴海は幸司の恋人ではないのかと言う噂だ。噂だけに限らず、これまで親密そうにしていた間柄なのは誰の目にもそう見えていた。
すると、晴海は周りの好奇心の目を落ち着かせようと、
「私は、今、吉富さんと付き合っているのよ」
そんな爆弾宣言なセリフを晴海自ら言う。
晴海の宣言に営業部一課は大騒ぎ。
もう暫くは仕事が手につかない状態になりそうだ。
そして、会社を出た幸司と美幸は会社の駐車場に止めていた車の中にいた。
二人寄り添って抱きしめあっている。誰もいない駐車場で。
主に社員や得意先が利用する駐車場。昼間はあまり人影はなくひっそりしている。
二人が寄り添うのには十分な場所で、手を握り締め唇を重ね合わせるのにも、絶好の場所となる。二人の唇がお互いに愛おしくて離れ難くなると、重なる唇も深みを増す。すると車内に淫らな音が響き始め幸司の息もかなり荒くなり始める。
「ねえ、こんな所でこれ以上はダメよ」
「そうだな」
名残惜しそうに唇が離れると、身を乗り出して美幸の体に覆いかぶさるようにしていた幸司も運転席へ座りシートベルトを締める。
「さあ、帰ろうか」
「ええ」
エンジンを掛けたものの、もう一度美幸の顔を覗きこみチュッと軽くキスをし「愛しているよ」と囁くと幸司は車を走らせた、二人の家へ向かって。


