好きにならなければ良かったのに

 これから生まれて初めての経験をする美幸に、返事が出来るはずがない。なのに、わざと美幸を困らせようと、幸司はもう一度囁く様に耳許で訊く。

「一緒にベッドへ入る? それともお風呂が先の方が良い?」

 殆ど心臓が爆発しそうな状態の美幸に、そんな質問はハードルが高過ぎて答えられない。
 俯いてモジモジするのがやっとで、どう反応すればいいのか。ベッドと言えばエッチを連想し、お風呂も同じように裸になるのだと思うと、どちらとも答えられず困ってしまった。

 そんな美幸の困った反応を見て、クスクス笑う幸司はいきなり美幸を抱きかかえた。「きゃっ!」と驚きの声を上げる美幸の顔を覗きこんだ幸司は、「ベッドへ行こう」とそれだけ言って寝室の方へと向かう。

 二人が過ごす部屋はスウィートルームだ。リビングルームの他にクィーンサイズのベッドがある寝室が一つある。そこへ美幸を運ぶとベッドへと下ろした。

「さあ、美幸のすべてを見せてもらうよ」
「……でも、私」

 処女の美幸にはこれから起こることがどんなことなのか想像もつかなかった。雑誌で読んだりテレビで見たりして得た知識などはたかが知れている。そんな少ない情報を頼りに今夜夫となった幸司と一夜を共にすることになる。それがどんなに胸に期待していることか、そしてどんなに不安に思っていることか。

 ベッドに横たわる美幸は目を潤ませていた。そんな美幸の額に軽くキスをすると、幸司は「大丈夫、俺に任せて」と優しい言葉を囁いた。

 緊張と期待とで美幸の心臓は爆発寸前。幸司に触れられるその手に体がビクつきながらも次第にその幸せな波に緊張も解されていく。額から頬へ、そして唇へと幸司の甘い唇が重なる。これまでのキスとは全く違った熱くて深いキスに美幸の頭は完全に痺れてしまう。

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