好きにならなければ良かったのに

 会議室へとやって来た幸司。いつもなら多少は廊下に研修中の香川の声が漏れ聞こえる事もあるが、この時は物音一つ聞こえず中に人が居るのだろうかと思わせる。

 幸司はノックすることなく急いでドアを開ける。すると、会議室では美幸と二人並んでテーブルに座る香川がいた。佐々木の姿はなく二人だけでくっつく様に隣同士に並ぶ姿が目に入る。

「佐々木の姿がないようだが?」
「課長、何か用ですか?」

 香川と美幸の二人が異様な顔をして幸司を見る。一体どっちが怪しい行動を取っているのかと言いたくなる幸司の眉間にシワがよる。

「名札だ。テーブルに置きっぱなしだったから預かっていた」

 ポケットに仕舞っていた名札を取りだし美幸の方へと差し出す。美幸は自分の首に下げていないことに気付くと、慌てて椅子から立ち上がり幸司の方へと名札を取りに行く。

「ありがとうございます」
「少し話がある。香川、大石を借りていくぞ」
「彼女、何かありましたか?」
「お前には関係ない」

 美幸の顔を見て、廊下へとクイッと顎を動かすと、幸司はさっさと廊下へと出ていく。

「香川さん、すいません、ちょっと出てきます」

 頭をペコリと下げると幸司の後を追って廊下へと出ていく美幸。二人の様子を見ていた香川は何事かと言うような顔をしながらニヤリと笑う。

「『お前には関係ない』ね。これはまた随分なセリフで」

 椅子を少し後ろへ引いて脚を組む香川は少し考え事をしている。そこへ、タイミング良く佐々木が戻って来る。
 手にお茶のペットボトルを抱えた佐々木はテーブルにそれを置くとドアの方へ顔だけ向けては呟いた。

「何かあったんですか? 大石さん、課長と一緒に給湯室の方へ行きましたよ?」
「さあ、なんだろうな。それで朝の資料の件だが、あの間違いに気付いたのは本当のところはどっちだ?」
「もしかして。ワザとアレを俺達に配りました?」
「さあな、どうだろうな」

 意味深な物言いの香川に佐々木は納得の出来ない顔をしている。まるで自分達が何か試されているのだろうかと。

 そして、幸司の後を着いて行った美幸は給湯室へとやって来ていた。


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