好きにならなければ良かったのに

「いたっ…………っつ……あれ、ここは?」

 朝、目覚めた美幸の視界に飛び込んできたのは幸司の寝室だ。何故自分の寝室に寝てなかったのかと、昨夜飲みに行った後の事を思い出そうと頭を捻る。

 思い出そうとすればするほどに頭が割れるようにズキズキする。頭のそばでタンバリンでも叩かれているのかと思うほどにガンガンと頭の奥が五月蝿い。

「自分の部屋へ戻ろう」
「静かに寝ていろ」
「えっ?」

 考えてみればここは幸司の寝室で、今寝ているのは幸司のベッドだ。自分一人が寝ている筈もないのに。隣に幸司の姿があると驚いて飛び起きてしまう。

「まだ、早いだろ。時間まで大人しく寝てろ」

 大人しくと言われても、幸司の隣で眠るのはどれくらいぶりだろうかと考える。どうやら頭の痛みは、前日も幸司のベッドで目を覚ましたことさえ思いだせない程に、凄まじい二日酔いが美幸を襲い思考回路は止まったまま何も考えられないようだ。

「え、と。水を…………」

 水を飲む口実でベッドを抜け出そうとする。横目でチラリと幸司を見ると、幸司は背を向けて寝ている。今なら静かにベッドから抜け出ても大丈夫だろうと、布団の中を体を滑らしベッドから下りようとする。

 お酒の所為か、体が熱くて少しだけ汗くさい気がする。服を脱ごうかと考えるも、布団の中から抜け出る脚がやけに涼しくも感じる。それに、擦れる衣服の音もしないし、肌と肌が触れあう感じに違和感を覚える。

 何か変だと布団を引き剥がす。思った通り、布団で隠れていた自分の体は霰もない姿をしていた。

「○×□△?!」
「五月蝿いぞ」

 何故こんな格好をしているのか記憶にないだけに恥ずかしい。ガバッと布団を体に巻き付けるとベッドに丸く寝そべった。

「あの……私、どうして、その…………裸なの?」

 少し声が震えながら訊くも、幸司は相変わらず背を向けたまま寝ている。美幸の質問に答える気がないのか無言が続く。

 何も言わない所を見ると、自分は幸司に無視されたのだろうと気落ちする。布団に丸くなったまま悲しさと虚しさがこみ上げてくると目にうっすらと涙が滲む。

「苦しそうにしていたから脱がせた」
「……え?」
「だから、苦しそうにしていたから脱がせたんだ」

 苦しそうにと言われても今一つピンとこない美幸。服を脱がせるだけなら分かるが、下着も全て脱がされていたのだから。
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