好きにならなければ良かったのに
今の状況からいろいろ考えたいことはたくさんあるが、今はあまり考えたい気分ではないと、自分が二日酔いなのを思い出した。
「いたた……」
再び頭痛に襲われ始めた美幸は丸まったまま眠ってしまった。その後、深い眠りについた美幸が目を覚ましたのは会社が始まった時間だった。
いつも通りにベッドから出た幸司はいつも通り自分の車で出勤していた。他の社員が営業部へとやって来る少し前には自分のデスクへと座わっている。そして、他の社員らが出勤する様子を見ている。
この日も同じく他の社員が出勤する様子をみていたが、一番最初に出勤してきたのは吉富だ。
「おはようございます、課長」
「……」
流石に今日は吉富に声を掛ける気分ではない。しかし、今日は吉富と晴海を連れて得意先へ打ち合わせの予定が入っている。仕事仲間を無視できない幸司は渋々「おはよう」と返した。
しかし、美幸に酒を飲ませて酔わせた上でホテルへ連れ込もうとした吉富は許せない。人としてあるまじき行為だと睨みを利かせていた。
「課長、昨日は失礼しました」
「……」
「今日は彼女は、美幸さんは」
「馴れ馴れしく呼ぶな。それに、美幸は二日酔いで起きれる状態にないから、今日は休ませる」
かなりご立腹といった様子に吉富は気まずい表情を見せる。けれど、二日酔いの原因は美幸が水と間違って飲んだ酒にあるのであって、吉富の所為ではない。
だから、それを言いたい吉富だが、かなり不機嫌な幸司に言える状態にない。あからさまに、吉富の話は聞く耳を持たないと幸司の態度がそう言っている。
それでも誤解だけはされたくないと説明しようとすると。
「その……昨夜のことで……」
「美幸には二度と近付くな」
吉富を睨み付けると、椅子から立ち上がった幸司は営業部から出て行こうとする。
「課長!」
「美幸は俺の妻だ。覚えておけ」
横目でギロリと睨み付ける幸司の顔を見た吉富は、追いかけようとした足がすくみその場から動けなくなる。
「お飾りの妻でも大事な嫁には変わらないのか?」
呆れた顔をする吉富。昨夜の事は多少は気にかけてはいたが、あそこまで幸司を怒らせるとは思わなかった。